10年くらい前私は物欲に支配されていた。
自分なんかに似合うはずもないブランド品を集めていたのだ。
ヴィトンの新作が出る日は有給を使って朝から店舗に並んだり
レアな限定品が出れば、仮病を使ったり。
とにかく、ブランド品の買い物をすることだけが生きている証だったのです。
ブランド品を身につけていて、誰かに褒められたり
羨ましがられたりすることはなかったのに
新しいブランド品を買うことができる自分に充足感があったから。
しかし、そんな自分が一変したのは突然ことだった。
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熱が冷めたきっかけは、地下鉄の車両の中の出来事でした。
私はいつものように出勤するため、地下鉄に乗っていました。
その朝の副都心線の混雑率は180%ほどで、
ぎゅうぎゅうではないものの少しの揺れで隣の人とぶつかるほどでした。
私はおろしたてのフェラガモのパンプスに、購入したばかりのダミエを抱えていました。
ダミエは限定品だったので人にぶつからないように、傷がつかないように
胸の前でぎゅっと抱きしめていました。
そんな中、手前に立っていた女性がスマホを落としてしまい、私の足元に滑ってきました。
その女性はスマホを見失ってしまい焦っていた様子でした。
私がちょっとかがんで拾ってあげればよいだけのことでした。
しかし、私はそれをせず私の足元にあることも教えてあげず、見てみぬふりをしていました。
扉が開いてからだと踏まれてしまう可能性があるのでその直前に拾ってあげようと考えていました。
そのうち、駅に到着し電車が止まり、かがもうとした時です。
停止位置の修正からか、電車はガタンと再び動き出し私はよろけてしまいました。
「あっ」っと思った瞬間スマホをヒールで踏んでしまったのです。
ガシャっという鈍いガラスの割れる感触がありました。
地下鉄の扉が開き池袋で大勢の人が流されるように降りて、その波に私も身をゆだね車内を出ました。
その後すぐに化粧室に駆け込みました。
鏡に映った自分の姿をみたら、ずいぶんとちぐはぐな格好をしていると思い
魂が抜けたようになりました。
そのときから、私はブランド品を買うことがなくなり、すべてのブランド品の持ち物をクローゼットにしまい込んでしまったのです。
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片づけをしていたら、そんなブランド品の数々が12点でてきました。
久しぶりに箱を開けてみるとみんなきれいで、ブランドの品格がそこにはありました。
私のところにあるのはブランド品に申し訳ない気持ちになり、まとめて売りに出すことにしました。
プロの鑑定士によってしっかりとその価値を判断してほしいと願ったため、ブランドの買取専門のお店に持っていきました。
きっと誰かの元でこのブランド品はまた輝くのだと思ったら
あの頃の私が嫌じゃなくなりました。